障がい者の権利擁護システムの
あり方に関する報告書
平成23年3月
三重県障がい者権利擁護委員会編
目 次
第1章
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第2章
「なぜ、障がい者に成年後見や権利擁護が必要か」 ・・ 2
1 障がい者の置かれている現状について ・・・・・・・・ 2
2 判断能力が不十分な障がい者と高齢者の異なる特質 ・・ 4
3 ライフステージに応じた支援 ・・・・・・・・・・・・ 6
第3章
ライフステージに応じた支援(年代別・障がい別) ・・ 7
1 就労準備期(18歳〜25歳 青年期) ・・・・・・・ 8
2 就 労 期(25歳〜40歳 中年期) ・・・・・・・13
3 充 実 期(40歳〜 壮年期) ・・・・・・・17
第4章 制度啓発の必要性と今後の課題 ・・・・・・・・・・・22
1 第三者後見と親族後見のあり方 ・・・・・・・・・・・22
2 制度の必要性の認識 ・・・・・・・・・・・・・・・・23
3 権利侵害の危険性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4 制度啓発の必要性と今後の課題 ・・・・・・・・・・・24
第5章 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
【参考資料】
障がい者の権利擁護システムのあり方に関する提言(骨子)
について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1 委員会設置の背景と位置づけ ・・・・・・・・・・・・ 2
2 権利擁護と後見的支援の現行制度 ・・・・・・・・・・ 3
3 成年後見制度(既存制度)の現状と課題 ・・・・・・・ 4
4 成年後見制度利用の推進に向けた論点・課題の整理 ・・ 5
5 残された主な問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
6 (今後の)「障がい者権利擁護委員会」の工程表、
スケジュール表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
平成21年度障がい者権利擁護委員会設置要綱 ・・・・・・・ 8
平成21年度障がい者権利擁護委員会名簿 ・・・・・・・・・ 9
平成22年度障がい者権利擁護委員会設置要綱 ・・・・・・・10
平成22年度障がい者権利擁護委員会名簿綱 ・・・・・・・・11
第1章 はじめに
三重県では、平成21年3月に策定した「みえ障がい者福祉プラン・第2期計画」を検討する中で、様々な県民の意見も交えながら、相談支援の充実や権利擁護の推進のための計画づくりを進めてきました。
また、関係団体(知的障がい者育成会)からの企画提案を契機に、平成
20年度に委員会準備のための意見交換会の開催を経て、平成21年度には「三重県障がい者権利擁護委員会」を設置し、@権利擁護に関する調査・研究、センター機能についての「提言」のまとめ、A普及啓発のための「ワークショップの開催」、B推進のための「シンポジウムの開催」など、権利擁護推進の事業を行ってきました。
これらのうち、権利擁護に関する調査・研究、センター機能についての「提言」については、日常生活支援の方法である「成年後見制度」の利用支援・地域福祉権利擁護事業の活用、虐待等人権侵害事案への対応、金銭管理や契約などの経済活動の支援、衣食住など日常生活の中の自己決定の保証など、障がいのある人が地域で暮らすうえで基盤となる仕組みづくりに向けた取組の方向性及び新たな事業等について、論点・課題を整理しながら、「障がい者の権利擁護システムのあり方に関する提言(骨子)」としてまとめました。
本年度(平成22年度)においては,昨年度の骨子を踏まえて、「各論」部分の「提言」を行いました。これは、障がい者の権利擁護システムのあり方における@障がい者がおかれている現状、Aライフステージに応じた支援の必要性(論点・課題の整理)、B現行成年後見制度の課題などを検討したものです。
一般には、高齢者と障がい者をひとくくりにする傾向がありますが、この提言では、障がい者の権利擁護と認知症高齢者の権利擁護を比較しつつ検討を行っています。それは、認知症高齢者に対する権利擁護では、認知症高齢者の人生の終わりを見据えて行うのに対して、障がい者の権利擁護では、そのライフステージ(就労準備期、就労期、壮年期など)に応じて行うという違いがあるからです。また、認知症高齢者を含む高齢者の権利擁護は、実際に経験していなくても、自分の親・兄弟姉妹に置き換えて考えれば、想像可能であるのに対して、障がい者の権利擁護は、自分の周辺に障がい者がいなければ、簡単には想像できないからです。
その意味でも、この委員会では、障がい者の権利擁護システムのあり方について、障がい者の現在置かれている状況を明らかにした上で、障がい者のライフステージに応じた論点・課題を整理しつつ支援の必要性を説き、最後に権利擁護の一つの方法である現行成年後見制度について、障がい者への身上監護の重要性を中心に、その課題解決策を示したいと思います。
第2章 「なぜ、障がい者に成年後見や権利擁護が必要か」
1 障がい者の置かれている現状について
判断能力が不十分な障がい者にとって、年齢・年代や障がい種別に関係 なく、生きづらさを抱えたまま生活する中での課題があり、本人が気づかな いうちに、権利侵害を受けていることもあります。
権利擁護の視点での支援が欠かせない課題を6点上げてみます。
【課題1】社会生活のための学習機会(知識・対処法の習得)
犯罪や日常生活上の不利益に巻き込まれないような学習活動が必要で、福 祉分野だけではない、生活全般にかかる連携が必要です。
問題発生時の発見や対応のため、関わりのある人や地域の関係機関の障が い理解も重要になります。(市民・警察・消防・行政機関・商工業者etc)
困ったときに、上記の人や機関へ気軽に相談できるような環境作りが重要 です。
具体的に、消費者被害、犯罪被害などについて、被害やトラブル等の知識、 もし遭遇した際の対処法を学びます。そのためには、わかりやすい教材の活 用、具体的な指示や指導、実際の場面を想定した訓練等が重要です。
また、虐待の問題は、本人自らが「いや」と言えたり、「助けて」と助け を求めること、虐待であることに気づくことが必要ですが、社会が虐待や差 別を許さず、ひとり一人の権利を尊重し守ること、虐待や差別を正しく理解 し、具体的に支援することも重要です。加害者が家族である場合などは、加 害者に対する支援も必要です。
いずれにしても、個々の支援はひとり一人の問題に留まらず、社会システ ムや社会全体の問題として捉え、社会的に支援されなければならないと言え るでしょう。
【課題2】親の意識改革への支援
親自身の思いが強いことにより、親の過剰な干渉や支配、思いこみによっ て、障がい者自身の意思確認が希薄になってしまっていることがあります。 親と成人後の子は、別々の意思を持った別人格であるとの認識の下に、親子 関係が築かれる支援が必要です。家族間で、将来のことやいわゆる「親亡き 後」の問題を検討するために、話し合いや相談が必要な場合もあります。ま た、互いに尊重し話し合うこと等に対する啓発が必要なこともあります。
【課題3】犯罪の被疑者・加害者への支援
捜査対象になった時の支援は、加害者でない場合だけでなく、加害者であ っても欠かせないものです。
(被疑者となってしまった場合)
取調べの内容よりも、その雰囲気や警察官等の口調に対する恐怖心だけ が先に立ち、真実を伝えられなくなることもあるでしょう。適切な支援がな い場合には、必要以上の刑罰を受ける可能性もあります。また、用語や書類の意味が正しく理解できず、国選弁護等の権利が行使できないことによって、事実や動機などが大きく歪曲され、結果として冤罪を負うこともあります。事実が裁判などでも正しく伝わるよう、弁護士の配慮のある支援などが保障 される必要があります。
(加害者となってしまった場合)
裁判を受け、加害者となってしまった場合、社会的経験の不足等から被害者への謝罪ができなかったり、謝罪の気持ちなどが表せないこともあります。過ちを犯した事実を受け止め、反省し、更正できるような支援が必要です。また、出所後を見据え、服役中から再犯することのないよう、適切な支援を受けながら、本人が自立できるように保障されなければなりません。
このため、地域生活定着支援センターや相談支援センター、法曹関係者の支援の確立が必須となります。
【課題4】犯罪の被害者への支援
(被害者となってしまった場合)
特に性犯罪の被害者などは、加害者を恐れるあまり、被害を言い出せないことがあり、言い出せたとしても、被害の立証を疑問視されて泣き寝入りすることも少なくありません。また、警察では被害届を受理されても同様の理由で検察が不起訴とする場合もあります。本人以外の家族や関係者等の関与ができない場合もあります。障がいの特性などにより、事実を何度も伝えることは非常に困難なこともあります。
こうしたことから、障害特性に配慮した個別の対応と本人の権利を擁護する粘り強い活動が保障されなければなりません。相談支援センター、警察・検察を含む法曹関係者の支援の確立・連携が必須となります。
【課題5】相談機関の機能の充実
地域で孤立する障がい者の家族を放置しないためには、相談機関の機能の充実と関係機関との連携が欠かせません。また、成年後見制度利用による権利擁護の確立、日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)との連携も 大切です。そのためには、市民に見える形での相談支援センターの認知が必要となってきます。支援が必要な人の情報が、相談支援センターに必ずつながる地域の連携が重要となります。しかし、成年後見制度では対応できない人もいます。この問題に如何に対応していくかの精査と対応策も欠かせません。
【課題6】支援の中身に関する検証〜身上監護とケア・マネジメント
被後見人等の生活状況が変わる時や権利侵害があった時の本人の不穏状態時等に対応できるよう、病院や施設等での処遇の内容に、後見人等の関係者が、確実に関与できるようにしていくことが必要です。
(例)隔離や行動制限、投薬、本人の望まない処遇などの不利益を課している場合、後見人等も入った会議で、条件と期間を限定して実施し、検証を繰り返す等
このような支援のあり方を、後見人等や外部機関も入った第三者機関(会 議)で検証(スクリーニング)をしていくなど、質への関与も更に一歩進める必要があるのではないでしょうか。今後、その手法として「ケア・マネジメント」(下記参照)と身上監護のより有機的な連携が望まれます。
生活状況が大きく変わる時や大きな財産の得失や権利侵害(民法第13条 各号参照)があるといった本人の生活、権利等に大きな影響を及ぼすことが想定される際には、本人、親、家族を含め関係者とのケア・マネジメントを義務付けることが望まれます。
(例)・生活の基盤が変わる時(親の死等)
・住居を変える時(自宅→グループホーム、入所施設→グループホ ーム等)
・仕事や日中活動の変更時(就職、離職、通所施設の変更等)
・権利侵害・加害(の恐れ)がある場合(消費者被害、自他加害等)
・心身の状態の急変時(入院、手術、高齢等による不適応等)
・本人に不利益を課す場合(抑制、投薬等)
・その他(本人に不可逆的なダメージを与える恐れがある場合)
(全日本手をつなぐ育成会中央相談室長細川瑞子氏の講演レジュメ より引用)
2 判断能力が不十分な障がい者と高齢者の異なる特質
障がい者と高齢者の成年後見等に関して、本人の状態像や判断能力が不十 分であることは共通であっても、両者は、異なる特質を持つことがあります。
双方の異なる特質(あくまでも一例です。)
区 分 |
障 が い 者 |
高 齢 者 |
実 施 期 間 |
長 期 間 |
短 期 間 |
主な親族支援者 |
親・兄 弟 姉 妹 |
配 偶 者・子 |
原 因 |
障 が い 特 性 |
認 知 症 等 |
障がい者の成年後見等には、次のような特質があげられます。
@後見期間が長くかかる。
A本人に資力がない。(場合が多い)
B本人のニーズを掴みにくい(自己決定支援の難しさ)
このような特質に配慮した場合、(中略)制度的な手当として、
@後見人等への引き継ぎ問題への対応、
A経費・報酬問題への対応
B複数の関係者の関与、
以上の要素が必須であります。
(全日本手をつなぐ育成会 知的障がい者の権利擁護システムの構築に関す る研究事業より一部引用)
以上を考慮すると、障がい者の成年後見制度等の利用には、住まい、仕事、 家事、結婚、子育て、余暇、生きがいづくり、文化・学習活動・・など、社 会生活全般と切り離せない問題があり、社会に関わりが深いほど権利侵害も 受けやすいことから、それぞれの生活の様々な場面にあわせた権利擁護支援 の重要性は、非常に大きいと言えます。
このため、本人の資力のみで後見人等を定めるのではなく、支援の必要性 や重要度、後見人等の適性によって、後見人等を定める必要があります。
また、双方に共通する配慮として、成年後見制度に本人をどう合わせるか ではなく、本人に成年後見制度をどのように合わせるかで考えるべきで、制 度は一つのツール(道具)に過ぎないことを認識すべきでしょう。
さらに、被後見人等本人の想い・心情に配慮・尊重する必要があり、後見 等活動や後見人等が本人にとって、好ましい活動や支援になっているかを本 人に確認するため、被後見人等との意見交換の場をもつなどの配慮が必要で す。自ら意見表明が難しい場合や後見人等に発言しにくいこともあることか ら、後見人等以外の関与にも特段の配慮を行う必要があるでしょう。
加えて、これからの取り組みには、「権利救済」及び「権利形成・獲得」 戦略が不可欠なものとなります。
・「権利救済」戦略
本人の権利を規定する法が存在し、その法の現在の運用や解釈等を活 用することによって、権利を一定擁護することが可能である場合に行う 権利擁護戦略
・「権利形成・獲得」戦略
本人の権利を規定する法が未整備あるいは不十分で、現行法及びその 現在の運用や解釈では権利を擁護することが困難な場合に行う権利擁護 戦略
また、「権利救済」戦略だけに留まらず「権利形成・獲得」戦略を進めて 行くためには、障がい者の権利擁護の要素として以下のことが必要でしょう。
@当事者のエンパワメントの充実
A権利侵害の領域別にみた事例の集積
B見守りのネットワークの強化
C地域課題としての共有化・・・自立支援協議会の活用
3 ライフステージに応じた支援
障がい者の権利擁護については、『ライフステージ』という時間軸が必要 です。それは親権者の庇護から外れた後、人生を全うするまでの長い期間が 想定されるからです。
よって、長期間にわたることを想定した後見人等への支援体制(特にライ フステージに応じた財産管理の支援、裁判所への報告・対応、法律行為への 対処、次期後見人等への交代支援など)や、被後見人等へのサポート体制(被 後見人等自身の心情等への配慮など)が重要です。
特に障がい者については、後見等事務が長期間にわたることが想定され、 障がいについての専門知識が必要であるなど、成年後見制度を活用し、被後 見人等に一番ふさわしい支援体制を切れ目なく構築することが必要で、その ための後見人等を確保する必要があります。
そのためには、ようやく10年が経過する成年後見制度において、未だ経 験をしていない長期間にわたる切れ目のない支援体制の確立が不可欠であり、継続性を意識した公的支援の必要性は高いと言えます。
また、このライフステージの時間軸を縦軸とした場合、横軸として意識し たいのが『どこで、どのように暮らすか』ということです。特に障がい者の 場合、例えば入所施設で暮らす場合と、就労しながら一人暮らしをする場合 とでは、身上監護の範囲に大きな差異が生じます。
成年後見制度等で対応しうる法律行為の適用範囲が及びにくいところで生 活するのが、地域で生活する自立度の高い人達であると言えます。その方々 のことを支援し、あたり前の社会生活を保障できる体制が必要となります。
第3章 ライフステージに応じた支援(年代別・障がい別)
第2章においては、高齢者と障がい者の権利擁護や成年後見制度が担う支 援内容の違いについて整理しましたが、ここでは、障がい種別・年代別の課 題を明示し、これらの課題に対応するためには、権利擁護の視点や制度が欠 かせないことを明らかにしたいと思います。
成年後見人等の役割には大きく「財産管理」と「身上監護」がありますが、 後出の表にまとめたそれぞれの支援の視点は障がい者支援にかかわるすべて のものが、当然に熟知しておかなければならないことでしょう。そしてこれ らの視点からそれぞれの個人への後見活動がなされることが、「権利擁護の 視点」に基づく「身上監護」といえます。
しかし、ここで述べる内容は個別の問題ではなく、各障がい種別、年代別 の総括的整理をしたものであり、個別対応を要することが大勢を占める高次 脳機能障がい者や遷延性機能障がい者或いは重症心身障がい者等の問題につ いては、別途の検討に委ねたいと思います。
知的障がい者は、発達段階での知的発達に遅れがあり、判断能力や生活能 力が不十分な障がいです。以前はIQだけで障がい程度が判定されましたが、 近年は、生活能力も含めた判定になっています。知的障害者福祉法などの法 律にも定義がなく、障害者手帳(療育手帳・愛の手帳・緑の手帳など)も全 国一律ではありません。
自閉症・発達障がい者は、成長段階で育てにくさを感じながらも障がいの あることを親も子も認識できづらい障がいであり、自閉症、学習障がい、注 意欠陥多動障がい、アスペルガ―などに分かれ、それぞれに特質も対応も違 うために教育手法の確立もままならない面があります。
精神障がい者は、主に思春期前後に発病する人とそれ以降に発病する人と では病名や障がい特性に大きな違いが出てきます。また、快癒段階での医療 との継続的な関わりや福祉との連携は欠かせませんが、家族の障がい受容が 難しく、医療との接点が薄れる等の事象も出てきますし、障がいゆえの高揚 感や落ち込み、自己認識力等の変化があり、すべての局面で同じ判断能力で はないこともあります。また、発病初期や症状が悪化すると、治療拒否や入 院の同意ができなくなり、保護者等の同意による医療保護入院が必要になり ます。20歳未満は親権者(両親)、20歳以上は保護者の同意が必要です。成 年後見人の後見人・保佐人は保護者として、医療保護入院の同意を求められ ます。保護者がいない場合は、市町村長が同意します。医療へ繋ぐ支援はと ても難しく、多くの問題点があります。
以下に、各年代別の整理を示します。
1.就労準備期(18歳〜25歳 青年期) |
幼少期や思春期をどのように過ごしてきたかによって支援度や対応が違っ てきますが、青年期の入り口では、障がいがあろうとなかろうと人生の岐路 に立つことに変わりはありません。
18歳になれば進路選択として就職か進学か、一般就労か福祉就労かの選 択を求められますし、住まいの場の確保に翻弄される場合もあります。
一般就労に際しても、近年、支援付き就労の必要性が主張されるようにな
りました。
また、給与や障害基礎年金のために預貯金口座の開設が必要になりますが、 自署のできない人は、金融機関が口座の開設を認めない場合もあります。子 どもの時に親が開設した口座があっても、その口座からの引き落とし等の手 続きをする時にも成年後見制度を利用しないと手続きができない場合があり ます。これは、知的障がい、自閉症・発達障がい、精神障がいに共通した課 題となっています。
20歳に達すれば、成人としての法的な権利行使をする場合に支援が必要 になってきますが、選挙権の行使ひとつをとってもなかなか難しい人が多く います。
また、成年後見人がつけば選挙権がなくなります。
生活上でも、様々な支援が必要になり、就労先での雇用契約やアパート等 の契約等にも支援は欠かせませんが、社会生活を送るためのコミュニケーシ ョン能力が不足し、人づきあいに苦しんだり、誤解を招いたり、不審者扱い を受けたり、経済犯罪被害を受けることもあります。
項 目 就労準備期(18歳〜 25歳 青年期) |
課 題 ・ 対 応 |
【共通するもの】 1 障がい認識および受 容 2 進 路 選 択 (1)進 学 (2)就 労 (3)居 住 3 社会性の育成 (1)なかまづくり (2)余 暇 (3)性 4 成人としての権利行 使への支援 (1)成年後見制度の利 用 (2)地域福祉権利擁護 事業(日常生活自立 支援事業)の活用 (3)参政権への支援 |
家族や本人の障がい認識と受容の差が将来の可能性に影響してきます。 幼少期の対応によって様々ですが、障がい程度ではなく、障がい認識と受容があるかないかでその進路が左右されます。 ◎進学にあたっての留意点 ・本人にとって重圧になってしまわないか ・適切な就学先が確保されるか ・就学先への登校方法が確保できるか ◎就労先の選択 ・一般就労か、福祉就労か ・一般就労への支援体制は (支援つき就労の可能性は?) ◎就労にあたっての留意点(下記の視点からのアセスメント(聞き取り調査)が必要) ・社会参加している自覚をもてるものであるか ・使命感を持ってできるものであるか ・経営者に理解をしてもらうだけでなく、同僚 の理解が得られるか ・パワハラ、セクハラに対応していく力(他人に助けを求めるなど)があるか ◎くらしの場 (家族と同居) 親と同居する場合は親は自立に向けた意識付けを行っていく必要があります。また本人は親とは違った時間帯で生活をする(休日が親と違ってくる、食事の時間が違ってくるなど)体験を経て、自分が独立した大人になりつつあることへの自覚が必要です。 (独立生活) 独立生活の場合、ある程度のIADL(Instrumental
Activity of Daily Living 手段的日常生活動作のことで買い物にいく、ご飯を作る、薬を管理して服用するなどのこと)の確保、苦手な行為への十分な自覚と代替方法の獲得が必須といえます。また最低限のマナーも身に付けなければなりません。 (施設入所) 施設入所を選択する場合は、まず本人のニーズに基づいていなければなりません。施設を終の棲家と考えず、あらゆる可能性と選択肢の中から選んでいくことが必要です。何かの懲らしめとして、若しくは家族や近隣住民らの力で望まない施設入所がなされることは絶対にあってはならないことです。 コミュニケーション能力に問題がある場合が多く、成人としての行動規範を身につけ、地域の一員として認められるように支援することが必要です。 当事者の会等でなかまに出会い成長する、職場、共通の趣味の知人、20歳を過ぎれば酒を酌み交わすなかまなどを形成していくことが大切です。そのために多くの人々との出会いや別れ、喧嘩や仲直りの経験を自ら積んでいかなければなりません。 レジャー・スポーツの体験の機会を確保し、その中で好きなことや自分にとって価値のある行為やものを見つけ、生きがいや就労への励みとしていけるようになっていかなければなりません。この大切な行動を逸すると後に就労などへの動機付けすら出来なくなる可能性も大きいものです。 男女とも性的に成熟する時期で恋愛にも性的関係が伴うことも当たり前になってきます。性的関係を結ぶことは恋愛感情に基づいていること、行為そのものは欲求を満たすだけでなく、生殖という重要な役割をもっていること、望まない関係を持たされたときは被害者として毅然とした対応が必要なことなどをしっかりと学んでおかなければならないでしょう。 親権者の代理行為が認められない時期になります。 法的手続きや行政への申請・福祉サービス利用・金銭管理、預貯金口座の開設と管理(署名が出来ない人への支援)、不利益な契約を締結してしまった際の取消権の行使など法的権限をもった代理人による支援が必要な場合が多く生じてきます。本人の判断能力により類型を決めていきますが、制限される権限は必要最小限であるべきで す。 専門員、生活支援員によるサポートによって地域での見守りと福祉サービス利用支援や日常的金銭管理、重要書類預かりなどのサービスを受けますが、ある程度の契約能力を有していなければならず、本人が拒否をすれば契約は解除することとなります。本人に他人の支援を要する状態であることの理解が不可欠でしょう。 選挙権の行使については代筆や情報提供、投票所への移動の確保などが保障されなければなりません。また、行使にあたっては、何人たりとも介入することは許されません 被選挙権の行使については一般にあまり想定はされていませんが、当然本人にその権利があることは理解していただかなければならないでしょ う。 |
【知的障がい】 1 住まいの場の確保 2 生活能力取得のため の訓練 3 進路選択 |
児童養護施設に保護されている知的障がいのある人は18歳(高校等の卒業まで)が支援の切れ目となります。どこに住むか、支援はどうするかは切実な問題です。また、障害児入所施設にいる人たちも措置延長になれば当面は問題なくても、同じような問題があります。ともに、成人障がい者として、住まいの場はどこがいいかの選択を迫られます。生活能力の取得機会にも恵まれず、自立生活への影響も大きく、社会人としてのスキルアップの長期支援が必要となります。 家族からの独立や入所施設から地域移行生活へのチャレンジの際に問題になるのが、生活能力の取得です。現状では、訓練期間が2年と短期間なものしかありません。延長されてもその期間は、1年しかありません。短期間に身につくものばかりではなく、日常的な見守りも必要でしょう。 職業前教育の場が身体障がい中心のため、十分な指導体制が整えられていないことから選択の幅が狭い実態があります。 唯一ある障害者職業センターでの訓練も1回の利用しかできないため、職能のスキルアップが保障されていません。 |
【自閉症・発達障がい】 1 教育手法が未整備 2 意思伝達の補助的手 段の重要性 3 特性を理解した支援 機関の連携 |
自閉症・発達障がいの子どもの存在は確認されていても、きちんとした教育手法が確立されていません。 また、さまざまな分野やライフステージに沿った系統立った支援・訓練も確立されていません。そのために、表面から伺い知れない内面のアンバランスな感覚を理解して支援につなげられにくい特徴があります。また、就労へつながる支援体制が希薄になっています。 外的刺激に過敏だったり、自己表現が苦手だったりするために、パターン行動をとることがある。気持ちが伝わらないことからパニックを起こし、不審者と間違われることもある。言葉での伝達を補助するものが必要となる。 専門性を持った関係機関が少なく連携も乏しいことから、親子が地域で孤立することも少なくありません。相談支援センターが核になって、連携した支援策を構築する必要があります。 |
【精神障がい】 1 発病リスクの多い時 期 (1)治療を受け容れる (2)人間としての成長 をサポート (3)スティグマ(恥・ 不の烙印)を作ら ない支援 2 家族支援が大切な時 期 |
思春期前後に発病するため、個別的対応が重要です。その人がいかに社会的スキルを多く持っているかによって、一人ひとりの回復後の生活の質に違いが生じ、支援のあり方も変わります。 まず第一に、治療を受け容れ、病状の安定を図ることが大切です。病状によっては入院治療が必要となり、時として医療保護入院となります。 復学や就労を焦ってしまうと、ストレスが強くなり再発に繋がる危険が多くなります。社会的な経験や体験を通して社会人として成長することが、大切です。ゆっくりと焦らないことが、この時期は大切です。 障がい受容が難しい年代です。人から後れを取ってしまったとか、人とは違ってしまったとか、もう普通に戻れないとかという意識を強く持ってしまいます。少しずつ、自信を回復し、自己肯定感を高める支援が必要です。 家族の障がい受容はとても難しいです。病気になった子や兄弟を、病気ごと受け容れることが大切です。発病は家族に責任はありませんが、回復には家族の協力が必要です。家族が回復に協力できるように支援が必要です。 |
2.就労期(25歳〜40歳 中年期) |
成人としての自覚を持った生活を送るべき時期ですが、なかなか自己判断 が難しい問題も多く存在する時期でもあります。有効な支援を受ければ立派 に社会人としての生活が送れます。
人生の伴侶と出会い、新たな船出をすることも考えられます。その際に、 家庭生活の知識や子育てへの支援等が必要となります。
また、壮年期から老齢期への準備期間としても大切な時期であり、人生設 計を考え、少しずつ将来への備えをすることが求められます。
しかし、親世代が自分の親の介護を担うこともあり、それまでのように我 が子の世話にかかりきりになれるわけではありません。さらに、高齢の親の 中には要介護世代になることもあり、障がい者本人の見守りが希薄になる年 代でもあります。
項 目 就 労 期(25歳〜 40歳 中年期) |
課 題 ・ 対 応 |
【共通するもの】 1 社会からの過剰な情報 に対する防衛策 (1)経 済 活 動 (2)経 済 被 害 (3)健 康 管 理 (4)結 婚 (5)子 育 て 2 地域とのつながり |
給与、障害基礎年金等の管理の支援が必要となります。社会からの情報の取捨選択ができず、過剰な刺激による誘惑から浪費や経済被害の可能性が高まるため、危険回避の整備(リスクマネジメント)が欠かせません。 「安易な金儲け」への誘惑など消費者センターや弁護士らの支援を受ける必要が生じたり、恐喝などの被害に遭い被害届を出さなければならないこともありますが、適切に支援が受けられるよう周囲の理解が欠かせません。 中年期に差し掛かると体調管理がますます重要になってきますが、自己管理が期待できません。大病を見過ごすこともあり得ます。 結婚した人には、お互いの人格を尊重すること、家庭を維持していくためには収入が欠かせないことなどを見守るサポートが必要です。 子育ては障がいの有無にかかわらず非常に大変なことでありますが、子育ての最中におこるイライラや葛藤をうまく表現できなかったり、助けを求めることが出来ずに虐待にいたることがあります。 ◎子育てへの必要な支援 親自身の養育能力が乏しいことにより、子どもが本来持っている能力を十分に伸ばしきれないこともあります。そこで、障がい者自身が、下記のことに気を配る必要があります。 ・適切な親子関係を構築するために他人の助けを借りても良いこと ・同じ悩みを抱えているもの同士が交流すること ・療育相談など子どもへの支援を行うこと ・PTA活動などの参加に際して、教員の理解も十分に得ること 地域では多くの住民の努力によって治安と衛生が保たれています。いままでは享受するだけのことが多かったこれらの活動にも可能な限り参加していかなければなりません。そのことにより自らも地域の一住民として地域に溶け込んでいくことができます。適切な関係を築くこと、無理なことは引き受けないこと、無理をすることでより住民に迷惑をかけてしまうことがあることなどを自覚しなければなりませんし、周囲の配慮を求めることも必要になります。 |
【知的障がい】 1 一般就労の継続の危機 2 自己選択の支援 |
仕事に慣れても、人とのコミュニケーションが苦手な人が多く、職場の人間関係の破綻による離職も多くなってきます。次期就労先の開拓とともに、失敗で傷ついた心の安寧を図る必要もあります。 生活体験を重ねる中で、自分のしたいことや考えをきちんと主張するための支援が必要です。選択の幅を広げるための様々な体験も必要となってきます。 |
【自閉症・発達障がい】 1 障がいを受け容れた上 での就労支援 |
適度に気を抜くことができにくい障がい特性を受け容れた上で、個別対応ができるような就労支援が必要です。これが、就労の継続を可能にすることになります。 (例1)仕事と仕事の間に休憩時間を挟む (例2)チェックシートを使って、自分で確認 を取りながら仕事を進めていくシステム を取り入れる |
【精神障がい】 1 病気の治療が大切な時 期 (1)職場のメンタルケア (2)家族、障がい者への 障がい受容に対する 心理的支援と家族サ ポート体制の確立 (3)精神科以外の受診拒
否 2 引きこもりが長期化し てしまう時期 (1)引きこもりからくる 親への過度な依存 3 入院から地域生活への 支援が必要な時期 |
仕事上、責任を負うことが多くなる時期ですが、安定期に入ったと安心をして、油断から服薬を中止したり、無理をして過労状態になり、再発を招いてしまうことがあります。 職務上の過度なストレスから発病のリスクを負います。企業はストレス回避のシステムを従業員の健康管理システムとして整備する必要があります。 障がいの受容と受診の必要性を理解することは欠かせません。自己判断による服薬の中止は、病状の悪化を招きます。また、社会の偏見から障がい受容が進まないことも将来に負の影響を及ぼします。家族も含めた支援体制の確立が欠かせません。 精神疾患以外にも生活習慣病等のリスクや引きこもりからくる不摂生での健康への影響が見られる年代に差し掛かっています。医療機関の精神科以外の診療科医師等の精神疾患(障がい)への理解が欠かせません。 思春期前後の発病後、家族依存が強く、引きこもりが長期化することがあります。引きこもりにより、社会性が失われます。 社会性が失われることにより、いろいろな生活力に支障が生じ、親への依存が強くなっていきます。長期化すると、親の介護力が落ちて、障がい者のADL(Activity of Daily Living日常生活動作のことで食事を摂る、入浴する、移動するなどの行為)やQOL(Quality of Life生活の質)にも影響が出てきます。しかし、家庭への介入が難しく、孤立化する家族を、地域でどのように見守り支援していくのか、地域で支えていく仕組みが必要です。 治療としての入院は必要ですが、入退院を繰り返したり、長期化してしまうと、社会生活力の低下を招いてしまうことにもなり、地域生活への意欲の減少にもつながります。 退院後は、個人の生活力を高める自立生活訓練等の支援策は必要ですが、個人の問題だけではなく、環境面への支援が大切です。退院後の地域生活をいかに支援するのか、家族や地域のサポートをいかに支援していくのか、市民として地域で如何に生きていくのか、大切な課題です。 |
3.充実期(40歳〜壮年期) |
人生の充実期になります。
しかし、支援者であった親が高齢化する時期でもあり、別れへの支援と準 備も必要になってきます。自己の確立により、人生の終焉期までの充実した 人生を送る支援が望まれます。
項 目 充 実 期(40歳〜 壮 年 期 ) |
課 題 ・ 対 応 |
【共通するもの】 1 福祉につながらなかっ た人への支援 2 親の高齢化 3 親の死後事務への支援 4 遺産分割協議 5 高齢化に伴う体調管理 6 退職後の人生設計 7 介護保険の利用 |
生活のしづらさを抱えながらも福祉や医療の支援を受けずに生活してきた人がいます。支援の網の目から抜け落ちた人生を過ごした原因の究明も必要ですが、まずは、手帳の取得や障害基礎年金の受給、福祉制度の利用等への支援のために関係機関の連携が欠かせません。また、相談へのアプローチを支援するための地域住民や民生委員等の連携、関係機関の連携が重要となってきます。 親と同居していると障がい者が介護者にならざるを得なくなりますが、それが負担になることもあります。子は、親の付属物ではありません。親が身体的・経済的に困窮期に入るこの時期には、障がい者の負担にならないように親の支援と子の支援を分けて考えていく必要があります。また体力的にも親が弱まることで今までと環境が一変してしまうことも珍しくありません。障がいのある子どもや、親を狙う第三者からの搾取や虐待が起こらないように親の権利擁護制度の利用も欠かせなくなるでしょう。 判断能力の不十分な障がい者には、親の死後への対応が難しいため支援を必要とします。また、今まで支えてくれた親を失った喪失感をぬぐうのは困難なものです。そのことがストレスとなって、混乱を招きます。寄り添う支援が必要となりますし、事前に、自立した生活に移行できるような支援が欠かせません。 両親のいずれかの死亡にともない、残された親や兄弟との間で遺産分割協議がなされることになります。もっとも近くにいて信頼していた家族と利益相反(ある行為により一方の行為が、他方の不利益になる行為のこと)になるという今までに経験したことのない交渉がおこなわれることになります。ここでも自分自身の意にそわない不利益を被る可能性は十分にあります。 癌など生活習慣病の発症リスクが高まりま す。痛みや疾病の発症をきちんと判断できないこともあります。検診の実施や健康管理のための研修や支援を考えないといけません。慢性的な生活習慣病の症状は障がいがなくても自覚はできにくいものです。健康診断のときなどに、主治医の診断や指示を本人に分かりやすく説明しなければなりません。 一般就労していた人も、福祉就労していた人も若いころと同じように働けなくなってきます。離職後の生活をどう考えるのかを準備する時期です。相談支援センターでのアセスメント実施と個別支援計画とともに高齢者の支援制度の複合的利用も視野に入れる必要があります。 ADL(日常生活動作)に支障の少ないタイプの障がい者は、介護保険制度において必要な支援が得られる認定が出ないことが多くあります。生活の困難さはADL(日常生活動作)能力からではなく障がい特性に基づくものであることが多く、場合によっては障がい福祉サービスの継続利用も必要になります。介護支援専門員らには障がいについての理解を深める努力が求められます。 |
【知的障がい 自閉症・発 達障がい】 1 生活環境の変化への支 援 2 親の高齢化・死の認識 |
この時期には、知的障がいも自閉症・発達障がいも同じような問題を抱えてくると想定されます。 離職や親の介護力の低下、死別などで生活環境が大きく変わることになります。変化に順応することも、状態を受け入れることも難しい人に対する支援が必要となります。福祉と医療等の連携も必要になってきます。 自分の体力の衰えを自覚することも困難な人に介護者であった親の老化を受け止めることはさらに困難です。死別を理解したり、受け止めたりすることも難しいことだといえます。福祉、医療と司法の連携で支援することが望ましいと考えます。 |
【精神障がい】 1 統合失調症の安定期 (1)地域で生活されてい る方々 (2)長期入院している方 々 2 うつ病の発症期、再発 予防への支援 |
統合失調症は落ち着いてきますが、サポートは欠かせません。 地域で生活されている方々、仕事をされている方々は安定していることが多い時期です。しかし、今まで支援してくれた家族の力が衰えることにより、不安定になることも多く、場合によっては、家の中に家族以外の第三者の支援を必要とする時期です。 病状が安定している長期入院の方々の地域移行支援が必要です。長期入院によって、社会生活に不安が強く、生活力も乏しいためにいろいろな支援が必要です、金銭管理や日常生活、社会参加など、その人らしくどのように地域で暮らしていくのか、重層的な支援が大切です。 中高年のうつ病は、長期化しやすく、再発しやすい為に、治療への支援と、生活支援が大切です。自殺のリスクが高いため、孤独にしない見守り支援が必要です。 |
以上のような課題と対応が明らかになりましたが、これらの問題を解決す るための手段として、現状では、成年後見制度の利用は欠かせないものであ り、唯一の手段でもあります。
成年後見制度の支援内容には、「財産管理」と「身上監護」があります。
ここでの整理は、主に、身上監護の対象となるものですが、続いて、成年 後見制度での「財産管理」と「身上監護」を説明します。
・「財産管理」と「身上監護」
[財産管理を目的とする法律行為]
本人に属する財産(不動産や動産、無体の財産権、債権・債務等)の管 理を目的とする行為をさします。
@ 預貯金の管理・払戻、等
A 不動産その他重要な財産の処分とこれらに関連する登記・供託等 の公法上の行為
・不動産売買、賃貸借契約の締結・解除、担保権の設定、等
B 遺産分割、等
[身上監護を目的とする法律行為]
身上監護は、生活または療養看護に関する次のような行為をさします。
@ 健康診断等の受診、治療・入院等に対する契約の締結、費用の支 払い、等
A 本人の住居の確保に関する契約の締結、費用の支払い等
B 福祉施設等の入退所に関する契約の締結、費用の支払い等、及び そこでの処遇の監視・異議申立て、等
C 介護を依頼する行為及び介護・生活維持に関連して必要な契約の 締結費用の支払い等、社会保障給付の利用、等
D 教育・リハビリに関する契約の締結、費用の支払い、等
後見人等に求められる「財産管理」は、「保全」、「処分」、「活用」となります。「保全」とは財産の現状を維持することを指し、「処分」、「活用」は身上監護のために財産を金銭に換えたり、消費したりすることを指します。しかし財産を処分できるといっても本人にとって極めて重要な財産で ある居住用不動産の処分などは一定の制限が設けられています。また、 後見人等には資産の運用は原則として認められておらず、有価証券等につ いても適時換金していくことなどが求められます。後見人等に求められる のは財産を増やすことではなく安全に元本が減らないように管理すること です。いずれにせよ、被後見人等の不利益にならないことを最優先する必 要があります。
財産管理を行ううえで最も重要なことは、本人のためにいかに財産を活用 するかであるといえましょう。お金を貯めることを最優先した結果、本人の 生活が窮屈になってしまったり、ぼろぼろになった服を着ていたりすること は、後見事務を行うものとして適切な支援ができているとはいえません。安 全に財産を保全しながら、豊かに暮らしていく支援を実践しなければなりま せん。
その豊かな暮らしを支援する重要なキーワードが「身上監護」です。民法 858条では「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産の管 理に関する事務を行うにあたっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、 その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」とあります。後 見人等が関わる範囲はその中の法律行為に関するものに限定されますが、そ の事務を行うにあたっては、「成年被後見人の意思を尊重し」、かつ「その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」ということです。つまり、法定代理人として代理権を行使できる立場にあったとしても「本人の意思」は絶対に最優先されなければなりません。そしてそのことが前述した「豊かなくらし」につながるわけです。
具体的に障がい者の支援においては「年齢にふさわしい生活を営む権利」 や「居住場所の自由」、「必要な配慮をうけること」などを判断基準にすることが重要でしょう。成年後見人の仕事には「財産管理」と「身上監護」があ るとよくいわれます。それを耳にするとそれぞれ別個の内容に聞こえますが、この2つの役割は決して切り離されるものではなく、常に連動しているものといえます。本人の財産は本人のために有効に活用されるものであり、その活用の根拠は本人のよりよい暮らしのためであるべきです。
障がい者の後見を行うものは、護ることばかりを優先するのではなく、安 全、安心な環境の中で愚行権(他者からみると一見無駄な行為や誤りと評価、 判断されるが、個人にとって誰からも邪魔をされることのない自由な領域に おける行為のこと。自分への褒美に高額の嗜好品を購入したりすることを指 す)を行使できる機会をも保証していくべきでしょう。なぜなら人間は無駄 と思える行為や失敗経験から多くの力を身に付けていきます。本人が少しず つ自分自身に力を付けていき、自分の人生の主役になれるような支援こそ が障がい者の身上監護の中で最も重要で不可欠であると思われます。
(参考、引用文献:福祉関係者のための成年後見活用講座 第3版 (社)日 本社会福祉士会成年後見制度利用促進事業委員会「福祉関係者のための成 年後見活用講座」プログラム・テキスト作業委員会編(社)日本社会福祉 士会 2005.3、
権利擁護と成年後見 (社)日本社会福祉士会編 民事法研究会 2009.3)
第4章 制度啓発の必要性と今後の課題
1 第三者後見と親族後見のあり方
民法第843条第4項では、成年後見人を選任するには、「成年被後見人 の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経 歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であ るときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被 後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮 しなければならない。」とあり、成年後見人の選任について、第三者後見と 親族後見との差違を設けていません。
事実、後見の多くは親族後見であって第三者が後見する場合は限られてお り、多くは、任意後見のように本人が希望した場合に第三者が後見するもの と思われるが、近時の家庭裁判所の選任は、親族後見から第三者後見に移行 する方向で検討される場合が多くなっているようです。
特に、後見人の財産の使い込み事件が多発する中で、裁判所も親族後見人 選任については慎重になっており多額の財産管理をする必要がある場合は原 則第三者後見人を選任しています。
成年後見の理念は、本人の意思の尊重と本人保護との調和と言われるが、 後見人の選任目的については、まだまだ本人保護や財産管理に偏っており、 本人の自立を支援するための後見利用という視点は少ない。特に障がい者に おける後見にあたって期待されるべき身上監護を主目的に選任の申立てをす る場合はまだまだ少ない。
親族後見では、本人の安心や信頼が得られやすい反面、親権の延長的な後 見であって客観的な後見とはなりません。同居の場合は家計が同じになり易 く、厳格な財産管理は行われにくい。本人の意思や利益に比べて親族の都合 が入る余地があり、本人の意思決定の支援にはなりにくい面があります。ま た親密な関係性が自覚のない虐待を招く恐れも否定できません。長期の後見 については、将来的には、親なき後の後見も問題となってきます。
第三者後見の場合、法的又は福祉的専門職が多く、被後見人の財産や家族 からの虐待などから本人を護るという点で有効と思われるが、後見報酬など 費用の面での問題があります。
また、特に障がい者の場合の後見は長期に及ぶことが予測され、一人での 後見では限界があります。更に、身近な存在として被後見人の安心や信頼を 得るための後見活動を継続的に行うことが十分でないという状況もあり、後 見人等に対する不安や不信を招く恐れがあります。これらの点から、第三者 後見としては、複数後見、法人後見、専門職でない身近な第三者による後見 など後見体制の充実が求められますが、費用を考えると実現は難しい。現在 唯一の成年後見の助成制度である、成年後見制度利用支援事業の利用普及に 加え更なる拡充が必要となるでしょう。
さらに、今後制度を普及させるには、資力のない人の後見については、福 祉的な公的専門機関で後見していくことや、親族後見については、後見人に 対する支援機関も必要です。
2 制度の必要性の認識
障がい者の後見については、家族や日常的に支援する関係者が、この制 度への理解や被後見人である障がい者の利益の実現についての認識の必要性 が、特に親なき後の後見に欠かすことができないと考えられます。
しかし、現状は、被後見人である障がい者の利益のための制度であるとの 認識が乏しいケースが少なくありません。たとえば、福祉サービス契約のた めに必要だからとりあえず後見人になっておく、金融機関が出金に応じない からしかたなく申し立てたなど、社会の情勢に左右されやすい傾向もみられ ます。また、後見人等が、被後見人である障がい者の財産を自由に管理でき ないなら後見人等にはならないなど、間違った理解や思い込みもあります。
この制度が、被後見人である障がい者の利益のための制度であることの正 しい理解を促進させる必要があるが、その背景には、永い間、障がい者本人 を家族のみで支えてきたという家族の孤立感があるからと思われる一面も否 定できません。
成年後見制度の正しい理解と普及を進めていくには、本人支援とあわせて 日常的に家族が孤立しないよう支援できる体制整備を今以上に充実させてい く必要があります。それとあわせて後見制度利用について身近なところでい つでも気軽に相談できる専門的機関が設置されていく必要もあります。
また制度に対する家族の不安の解消をはかるため、家族と専門的な第三者 という複数後見のあり方を模索することも大切です。
そして、このように柔軟な後見制度の利用を進め発展させていくためには、 後見人の養成を組織的に幅広く進めていくことも求められます。
何より安心して任せられる制度の構築ができるよう、関係者の意見を集約 し、より良い制度へと発展させる努力をしていく必要があるといえます。
3 権利侵害の危険性
長引く経済不況下の日本社会において、障がい者の権利侵害の危険性は非 常に高い。悪徳商法、消費者被害などの財産侵害、労働においての搾取(長 時間低賃金労働)や、虐待(金銭的、身体的、性的、心理的、ネグレクト) 被害を受ける可能性も高い。また発達し続ける携帯電話やインターネット環 境も犯罪や深刻なトラブルを誘発しかねません。しかし、権利擁護の手段と して利用される後見制度だけでは、その被害を防止することはできません。
昨今、よく議論されるようになってきた、権利擁護のための地域のネット ワークの構築、具体的には、家族、親族、友人、行政職員、生活支援者、福 祉サービス提供者、医療関係者、司法関係者、後見人、民生委員、自治会長、 警察関係者など地域の社会資源を有機的に結びつけるネットワークづくりを 構築していく必要があると指摘されますが、実際の取り組みは遅く今後の課 題と言えます。
権利擁護は、社会的な問題で個人や関係者だけで解決できるものではない との認識が必要ですし、後見人等の侵害を防止するための施策、後見監督人 の機能の強化と監督体制の充実や後見人自身への支援も必要です。
また、成年後見制度の利用によって、後見類型次第で、被後見人の選挙権 が剥奪されることが最近問題になっているほか、職種によっては、後見類型 次第で、採用の欠格事由となり制度利用が権利侵害につながることもありま す。
さらに、知的障がい者の申立てについては、療育手帳の認定で能力鑑定が 省略できる運用となっていますが、現実には障がい者の能力を診断できる医 師等が少ない現状もあり、鑑定は省略され、形式的に療育手帳の認定だけで 類型が決められていますので、できるだけ正確な能力の判定ができるように、 特に選挙権がなくなる後見類型の審判においては、時間がかかっても慎重な 能力の判定をしていくような運用の変更も必要ではないでしょうか。
このように、後見制度そのものの見直し、提言や、制度利用上の配慮を行 い、制度による権利侵害を招かないようにすることも重要です。
今後、人権意識を高める啓発活動も学校教育や広く社会教育等においても 必要ですし、制度理解を深める取り組みを含め、後見人活動をサポートして いくような組織を出来るだけ小さなエリアに設置していくことも求められ、 地域で支えていくと言った視点が欠かせません。
4 制度啓発の必要性と今後の課題
この制度の利用対象者は、潜在的なニーズを含めて今後ますます増加して いくと考えられますが、現状は、なかなか制度の利用が進まず、特に親族後 見の場合、正しく理解されていない状況が認められます。
福祉関係者にさえ十分この制度の理解が進んでいない状況の中で、社会全 体に到底浸透しているとは思われません。特に、この制度を利用する有益性 が解らないなど制度に関する理解が行き届いていないこと、また、申立ての 煩雑さ、第三者後見の場合の後見費用の負担もこの制度の利用を遠ざける要 因になっています。
制度啓発と同時に誰もが利用できるよう、公的な助成金制度や基金の整備 をして経済的な負担を軽減することも、この制度への普及には欠かせません。 あるいは、経済的な理由でこの制度を利用できないことがないよう、福祉的 観点から、公的な後見センターでこの制度の一端を担っていく必要もありま す。また、障がい者の利用については、長期的な生活支援に主眼をおいた身 上監護に強い後見人等の養成も必要となってくるなど課題も多くあります。
また、この制度を利用する上で問題となっている、後見人等の被後見人財 産の使い込みの問題は、制度的には裁判所の後見監督による監視しかないの が死角となり、長い間不正が見つかりにくくなっており、発覚したときには 多額の使い込みになっている場合が多いと考えらます。
本来、被後見人の財産は本人固有の財産とみなされ、その本人を日常的に 支えている家族の思いは制度的には反映されません。制度利用が財産の凍結 やお金の使い方の硬直性につながり、本人の直接的な利益と結びつかない支 出ができなくなってしまう面も否定できません。財産の保全や管理だけがこ の制度の本来の趣旨、目的ではないはずなのに、後見人の使い込みが多発す る中で、今後、今以上にこの制度が財産管理を重視する方向で進む危険性が この制度の使い勝手に悪影響を及ぼすことになっていくことを危惧します。 もちろん、不正な後見人等の身勝手な使い込みは許せませんが、硬直性を緩 和する何らかの対策が必要ではないかと思います。
一方で、後見制度が、被後見人の利益のための有益な制度であるといった 積極的な使われ方の正しい周知を根気よく行っていくべきで、制度の欠陥ば かり嘆いてもしかたがありません。これまで取り上げてきた制度そのものの 問題や制度理解の課題、制度における福祉的役割の強化、親族後見人への相 談支援体制の整備などを含めて制度の正しい利用のされ方が広く地域で機能 するような仕組みを構築していく必要があります。
最後に、今後、障害者基本法の抜本的な改正が見込まれる中、障がい者が、 今まで長い間地域社会から切り離され、保護的な福祉政策の下で生活してい た社会から、地域社会がどのように障がい者を受け入れ、障がいのある人が、 地域で普通に暮らしていくことのできるような環境をどう整備していくか が、今後の福祉行政の大きな課題です。
その中で、成年後見制度が、本人の権利を擁護する制度として機能するよ う関係者がさらに周知努力していく必要があります。
第5章 おわりに
社会福祉の基礎構造改革が進む中、福祉サービスにおいても措置から契約 へという考え方が浸透してきています。
判断能力が十分でない知的障がいや精神障がいの方が地域で安心した生活 を送るためには、権利を擁護する仕組みが重要になっています。
今回、障がい者権利擁護委員会を立ち上げ、平成21年度、平成22年度 の2年間にわたり、関係者で議論を行いました。
障がい者権利擁護委員会では、権利擁護の仕組みに関する問題、課題を明 らかにし、整理したうえで、解決に向けた取り組みについて検討しました。
検討された内容が、少しでも実現できるような方向に進んでいくことを期 待します。
参考資料
障がい者の権利擁護システムのあり方に関する提言(骨子)について
三重県障がい者権利擁護委員会
委員長 渡邊 功(三重弁護士会)
事務局:三重県健康福祉部障害福祉室
三重県では、平成21年3月に策定した「みえ障がい者福祉プラン・第2期計画」におい て、障害者基本法による法定審議会である三重県障害者施策推進協議会委員の議論のもとに、その部会である三重県自立支援協議会でも意見聴取を行うとともに、様々な県民の意見も交えながら、相談支援の充実や権利擁護の推進のための計画づくりを進めてきました。 また、この間に、関係団体(知的障がい者育成会)からの企画提案を契機に、準備のための意見交換会の開催を経て、平成21年度には「障がい者権利擁護委員会」を設置し、権利擁護に関する調査・研究、センター機能を議論する委員会による「提言」のまとめ、普及啓発のための「ワークショップの開催」、推進のための研修セミナー・シンポジウムの開催な ど、権利擁護推進の事業を計画してきました。 これらのうち、権利擁護の仕組みは、相談支援とともに、日常生活支援の方法である「成年後見制度」の利用支援・地域福祉権利擁護事業の活用、虐待等人権侵害事案への対 応、金銭管理や契約などの経済活動の支援、衣食住など日常生活のなかの自己決定の保障など、障害のある人が地域で暮らすうえで生活の基盤をなす仕組みともいえることから、地域における障害のある人の権利擁護の仕組みづくり向けた課題及び取組の方向性並びに新たな事業等について、論点・課題を整理しながら、議論を深めることとなりました。 本委員会は、「障がい者の権利擁護システムのあり方に関する提言」を策定するため、様 々な専門機関の支援者や障がいの当事者団体関係者等からなる委員11名と、障害福祉 室を事務局として設置されました。 平成20年度に2回の意見交換会と、平成21年7月に第1回の委員会を開催し、資料の やりとりを含め、3回にわたり検討を重ね、1年目の「提言」(骨子のとりまとめ)を行いまし た。 |
障がい者の権利擁護システムのあり方に関する提言(骨子)について
1 委員会設置の背景と位置づけ
(1)判断能力が不十分な人への契約支援
○ 私たちは社会生活を営むうえで、様々な取引や契約を結んで生活をしています。
そして、契約を結ぶときには、何が自分にとって最善かを判断して決めています。
○ この契約による仕組みは介護保険制度導入(その後、障がい者分野も支援費制度の 導入)を皮切りに、福祉サービス利用についても原則となりました。
○ では、何が自分にとって最善かについての判断能力が失われたり、不十分になった りして契約の意味内容が十分に理解できなくなった人たちはどうなるでしょうか。
○ このような問題を解決し、判断能力のない、又は不十分な人を保護・支援していく ための仕組みとして、「新しい成年後見制度」と「地域福祉権利擁護事業」(日常生 活自立支援事業)が実施されました。
● 新しい成年後見制度とは
○ 高齢化の進行に伴い、増大、多様化した福祉ニーズに応えるため、社会福祉の大き な改革が始まり、平成12年4月の介護保険制度の実施以降は(障がい者分野は平 成15年4月の支援費制度)、福祉サービスの利用が、行政が決定する「措置」か ら「契約」に変わりました。
○ 「契約」は自己責任のもとに自己選択・自己決定を行うものですが、(認知症高齢 者、)知的障がい者や精神障がい者など、判断能力の不十分な人は、適切な福祉サ ービスを選択し、契約・利用することは困難です。
○ そこで、これらの方々を保護、支援するための従来の「禁治産・準禁治産制度」を 改め、民法の一部改正等を行い、「自己決定の尊重」と「本人の保護の理念」との 調和を図った新しい成年後見制度が平成12年4月から施行されています。
(2)活用できるシステムの必要性
○ 成年後見制度の利用は年々増加していますが、さらに、潜在的なニーズをもつ人々 の利用を促進する必要性から、成年後見制度等の権利擁護の制度を効果的に活用で きるシステムづくりが求められています。
○ 一方、認知症高齢者に対する「高齢者虐待防止法」は制定・施行されてはいるもの の、障がい者分野では、未だ障害者虐待防止法の制定もなく、高齢者分野に比して、 取組について立ち後れているのが現状です。
○ そこで、本委員会は、現行制度では十分行き届いていないといわれる「身上監護」 の分野や、障がい者に対する二次的相談支援・機能の必要性や、親族後見において も必要な支援など、障がい者に対する成年後見制度等を効果的に活用していくうえ での、本県の実情に即した支援の仕組みづくりのあり方を検討・提言するために設 置されたものです。
2 権利擁護と後見的支援の現行制度
●
権利擁護の仕組み
○ 権利擁護とは、「自らの権利や援助のニーズを表明することの困難な高齢者・障が い者等に代わって、援助者が代理として、その権利やニーズ獲得を行うこと」を意 味します。社会福祉における権利擁護は、社会福祉サービス利用者の権利を主張し、 代弁・弁護する活動として位置づけられています。
○ この権利擁護システムのいくつかのメニューのうち、日常生活支援としては、契約 締結能力に不十分な人に対応する方法として、成年後見制度と地域福祉権利擁護事 業(日常生活自立支援事業)があります。
○ その他にも苦情解決や福祉サービスの第三者評価、情報開示等の方法があります。
● 後見的支援の現行制度の概要
○ (認知症高齢者、)知的障がい者や精神障がい者など、判断能力の不十分な人の保 護(財産管理や身上監護)について、代理権や同意見・取消権が付与された成年後 見人等が行う制度です。
○ 家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見」と、あらかじめ本人が任意後見 人を選ぶ「任意後見」があります。
○ 「法定後見」は、判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」があり、「任意後見」は、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見受任者と契約を結び、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。
○ 複数後見、法人後見も可能です。また、「成年後登記制度」が新設されています。
● 成年後見人等の業務―財産管理と身上監護
○ 成年後見人は、代理権・同意権・取消権を駆使して、本人の意思を尊重し、かつ、 本人の心身の状態や生活の状況に配慮しながら(身上監護)、財産を適正に管理し ていきます(財産管理)。
○ 成年後見利用支援事業は、成年後見制度の普及・活用を目的とした市町の取組みを 支援するための国庫補助事業(地域生活支援事業)です。
@ 市町長の成年後見制度の申立てに要する経費(登記手数料、鑑定費用等)
A 後見人等に対する後見等報酬の全部又は一部を助成する制度
● 「地域福祉権利擁護事業」(日常生活自立支援事業)
○ 新しい成年後見制度ができましたが、併せて、比較的簡便に利用できる社会福祉協 議会が実施主体である地域福祉権利擁護事業も創設されることになりました。
○ 福祉サービスを利用するにあたって必要な手続きや利用料の支払い、その他、日常 的金銭管理サービスや、書類の預かりサービスをその内容とします。
● 相談支援の窓口
○ 成年後見制度
認知症高齢者―市町高齢者担当、地域包括支援センター
知的・精神障がい者―市町障がい担当、総合相談支援センター(県内9圏域)
○ 地域福祉権利擁護事業
(市町社会福祉協議会)地域権利擁護センター(県内基幹社協)
3 成年後見制度(既存制度)の現状と課題
● 現状と課題の主な事項
(現 状)
○ 福祉サービスに対する利用契約制度の導入による、判断能力が不十分な人への契約 支援が必要ということで、徐々に制度活用が普及。
○ 今後の制度利用のニーズの拡がり。
(要保護者の増大、障がい者の親なき後問題―「親なき後」を、「親ある時から」 に)
○ 権利侵害、虐待事例の発生。(消費者被害の対応、障害者虐待防止法案の成立?)
○ 財産管理に止まらない身上監護(住居の確保、施設の入退所、介護・リハビリ・生 活維持に関する事項などの契約締結・解除・費用の支払い等)の役割が重要に。
(課 題)
○ 潜在的ニーズに比べて、成年後見制度の利用が進まない。(平成20年度に実施し た市町へのアンケート調査によると、主な理由としては、「ニーズが顕在化しない。 制度の理解が不十分。担当職員の経験不足。申立て調査等の事前調査が膨大で煩雑。 予算等で補助金である地域生活支援事業の財源不足」など。)
○ 地域福祉権利擁護事業(厚生労働省)と成年後見制度(法務省)の連携が不十分。
○ 法律と福祉の関係者の間による人材養成、ネットワークの形成。
○ 第三者後見人(市民後見人を含む。)の人材育成、候補者リストの充実。
○ 親族後見であっても、報告書作成等実務への支援が必要。
○ 成年後見制度自体の法的不備(選挙権等の欠格条項、身元保証、医療同意権・・)
○ 様々な課題に対応していく、県レベルでの権利擁護(成年後見支援)センター機能 が求められている。
4 成年後見制度利用の推進に向けた論点・課題の整理
(仮称)障がい者権利擁護センター(後見的支援)が担う機能について(考え方)
論 点 |
課 題 |
整 理 の 方 向 |
T 成年後見制度 の活用 |
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@ 市町村長の申立 (対象拡大・要件 改正) |
・市町の「成年後見利用支援事業実施要綱 の制定が20/29市町の現状で、未制定市 町の存在 ・身寄りのない人、親族の協力が得られな い人への対象拡大に消極的 ・事前調査の煩雑、担当者の理解不足、予 算確保 |
・県内の全市町における実施要綱の作成 ・国の対象者拡大の事務連絡をうけて、柔軟 な対応が可能(平成20年3月28日、厚 生労働省事務連絡) ・市町職員等への実務研修の実施を平成22 年度に予定 |
A 後見人への監督 機能 |
・家裁の監督機能が不十分で、補完が課題 ・特に、身上監護への関与が希薄 ・後見人の立場悪用の事例が発生 |
・家裁の役割が果たせていないことから、確 認機能等の支援が何らかの意味で必要、特 に「身上監護」が必要 ・法定後見人への監督機能・機関が必要(家 裁を補完?) |
B 親族後見への支 援 |
・家族間の対立、債務の整理は困難 ・報告書作成事務の不慣れに対する支援が 不十分 ・家裁という司法の敷居は高く、壁があ る。 |
・親族後見であっても、報告書類等の整理提 出に不慣れな部分をフォローしていく必要 がある。 |
C 被後見人の苦情 申し出 |
・被後見人が苦情を申し出る方法がない。 ・被後見人としての当事者の声を聞く必要 がある。 |
・声を出せない当事者に対して、「支援をうけた自己決定」の尊重、当事者の代弁機能が必要 |
D 二次的相談支援・ 機能の必要性 |
・一次相談機関の市町や、総合相談支援セ ンターからの二次的相談を受ける機関が ない。 ・苦情解決につながらないケースの発生 |
・専門的な相談の受理が困難な場合に、二次 的相談をうける仕組みが必要 |
E 関係機関との連 携の仕方 |
・社会福祉協議会の「地域福祉権利擁護事 業」との引き継ぎや連携が不十分(補助 保佐類型) ・苦情解決の機関との連携が不十分 |
・「地域福祉権利擁護事業」と成年後見制度 (補助・補佐類型等)の適切な引き継ぎや連 携を充実させる必要 ・苦情解決機関につなげる仕組みが必要 |
F 「専門対処」、つ なぎ方 |
・法的問題について、弁護士や司法書士等 へつなぐ仕組みがシステム化されていな い。 ・類型別による「取消権、同意権」の法律 行為の特定が必要 |
・「専門対処」ができる弁護士・司法書士や、 「つなぐ」役割のある社会福祉士への関与 の日常的仕組みが必要 |
5 残された主な問題点
論 点 |
課 題 |
U 法的(民法等)制度上の問題・不備 |
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@
身上監護への取組 |
・身上監護に関する内容や相談支援に対する確認機能が不十分 ・概念と具体的業務の曖昧さ、個人的性格 |
A 第三者後見人の人材育成・確保 |
・候補者リスト、量的拡大 ・体系的研修の実施 ・市民後見人の養成と質の担保 |
A
条例等の法的根拠 |
・自治体レベルの法的根拠規定の整備の必要性 |
B
欠格条項の規定と改正 |
・選挙権等の欠格条項等の規定に対する関連法改正の必要性 ・手帳の障害程度と後見類型との整合性の見直し |
C
住宅の保証人制度の確立 |
・保証人制度による居住の場の確保 |
E 身元保証、医療同意、死後の事務・・・・ |
・法制度上の不備に起因 ・事実行為の捉え方 |
論 点 |
課 題 |
V その他権利擁護の全般に関 わること |
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@ 日常生活における権利侵害 |
・学校や職場、家庭や施設で本人の自己決定が尊重されていない。 ・福祉サービスが適正に受けられていない ・身近な人からの情報提供の仕組みがない。 |
A 緊急時の対応、悪徳商法、消費者保護 |
・不適正な契約、詐欺商法の事例発生 ・不審者、変質者として通報 ・災害時の避難場所での対応 |
B
地域福祉サポート |
・本人や家族が気軽に相談でき窓口の設置 ・普及啓発、情報共有が必要 ・権利侵害回避のための本人の啓発と仲間の提供 ・支援者・関係者の位置づけによる役割分担 |
D
虐待防止 |
・虐待防止の法制度がない。 |
E
触法行為 |
・援護の実施者、保護の実施責任のルール化 |
F
解決のしかけ |
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G
ネットワークの形成 |
・広域ネットワークの必要性と事例集積の必要性 ・地域の支援者のネットワークの構築の必要性 ・地域の人たちの「気づき」の促進 ・県の自立支援協議会への情報発信 |
6(今後の)「障がい者権利擁護委員会」の工程表、スケジュール案
平成20年度 |
・設立準備の意見交換会(問題・課題の共 有) |
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平成21年度 |
・ 権利擁護としての後見支援機能を中心に 協議(年度のまとめ) |
普及啓発 ワークショップ セミナー・シンポジウム他 |
平成22年度 |
・さらに、虐待防止、権利侵害も含めて協 議(年度のまとめと後見的支援の運用実 施) |
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【参考】
後見・保佐・補助の判断能力の比較
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本人の判断能力が |
評
価 |
後 見 |
全くない (日常的な買物もできない) |
自己の財産を管理・処分することがで きない。 |
保 佐 |
著しく不十分 (重要な財産行為はできない) |
自己の財産を管理・処分するには、常 に援助が必要である。 |
補 助 |
不十分 (重要な財産行為が適切に行えるか不安がある) |
自己の財産を管理・処分するには、援 助が必要な場合がある。 |
後見・保佐・補助の権限と本人同意の要否
|
代理権付与 |
同意権(取消権)付与 |
後 見 |
本人の同意不要 |
本人の同意不要 |
保 佐 |
本人の同意必要 |
本人の同意不要 |
補 助 |
本人の同意必要 |
本人の同意必要 |
平成21年度障がい者権利擁護委員会設置要綱
(目的)
第1条 この要綱は、障がい者の虐待防止、権利擁護システムの構築に関し、調査・研究等を通し、権利擁護機関の機能について協議・提言することを目的として、障がい者権利擁護委員会(以下「委員会」)を設置する。
(検討課題)
第2条 委員会は、次の事項について検討する。
(1)権利擁護に関する調査・研究に関する事項
(2)権利擁護システムの機能のあり方・提言に関する事項
(3)成年後見制度など権利擁護の普及啓発のためのワークショップ・セミナーに関する事項
(4)その他、権利擁護に関する事項
(組織)
第3条 委員会は、次に掲げる者をもって組織する。委員会に委員長及び副委員長を置くものとし、委員の中から互選により選出する。
(1)当事者代表者、当事者関係団体
(2)弁護士
(3)司法書士
(4)社会福祉士
(5)関係機関代表者・関係者(施設・事業者)
(6)その他障がい者の権利擁護について熱意のある者
(任期)
第4条 委員の任期は、就任の日から平成22年3月31日までとする。補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。ただし、再任を妨げない。
(会議)
第5条 委員会の会議は、委員長が招集し、委員長が議長となる。
2 委員会は、委員の半数が出席しなければ会議を開くことができない。
3 委員会は、必要に応じて関係者の意見を聴取することができる。
(庶務)
第6条 委員会の庶務は、障害福祉室において処理する。
(運営事項)
第7条 この要綱に定めるほか、委員会の運営に関し、必要な事項は、委員長が委員会に諮って定める。
附則
この要綱は、平成21年6月15日から施行する。
平成21年度障がい者権利擁護委員会 名簿
<委員>
所 属 |
職 名 |
氏 名 |
備 考 |
三重弁護士会 |
高齢者・障害者支援センター委員長 |
渡 邉 功 |
委員長 |
(社団)成年後見センター リーガルサポート三重支部 |
支部長 |
波多野 健 一 |
副委員長 |
(社団)三重県社会福祉士会 権利擁護センターぱあとなあみえ |
副委員長 |
市 川 知 律 |
|
(社福)伊賀市社会福祉協議会 |
総合相談支援部 権利擁護課長 |
田 邊 寿 |
|
(社福)名張育成会 アドボカシー いが |
事務局長 |
市 川 知恵子 |
|
(財団)三重県知的障害者育成会 |
理事長 |
高 鶴 かほる |
|
同 上 |
事務局長 |
笠 井 幸 夫 |
|
三重県自閉症協会 |
副会長 |
山 根 一 枝 |
|
NPO法人三重県精神保健福祉会 |
政策アドバイザー |
南 川 久美子 |
|
三重県知的障害者福祉協会 |
会長 |
近 藤 忠 彦 |
|
(社福)三重県社会福祉協議会 |
地域福祉権利擁護 センター課長 |
朝 倉 敬 博 |
|
<オブザーバー> |
|||
三重県行政書士会 成年後見ワーキンググループ |
副代表 |
天 春 隆 子 |
|
<事務局> |
|||
三重県健康福祉部障害福祉室 |
参事兼室長 |
脇 田 愉 司 |
|
同 上 |
生活支援グループ副室長 |
板 崎 寿 一 |
|
同 上 |
生活支援グループ主査 |
木 原 高 行 |
|
平成22年度障がい者権利擁護委員会設置要綱
(目的)
第1条 この要綱は、障がい者の虐待防止、権利擁護システムの構築に関し、調査・研究等を通し、権利擁護機関の機能について協議・提言することを目的として、障がい者権利擁護委員会(以下「委員会」)を設置する。
(検討課題)
第2条 委員会は、次の事項について検討する。
(1)権利擁護に関する調査・研究に関する事項
(2)権利擁護システムの機能のあり方・提言に関する事項
(3)成年後見制度など権利擁護の普及啓発のためのワークショップ・セミナーに関する
事項
(4)その他、権利擁護に関する事項
(組織)
第3条 委員会は、次に掲げる者をもって組織する。委員会に委員長及び副委員長を置くものとし、委員の中から互選により選出する。
(1)当事者代表者、当事者関係団体
(2)弁護士
(3)司法書士
(4)社会福祉士
(5)関係機関代表者・関係者(施設・事業者)
(6)その他障がい者の権利擁護について熱意のある者
(任期)
第4条 委員の任期は、就任の日から平成23年3月31日までとする。補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。ただし、再任を妨げない。
(会議)
第5条 委員会の会議は、委員長が招集し、委員長が議長となる。
2 委員会は、委員の半数が出席しなければ会議を開くことができない。
3 委員会は、必要に応じて関係者の意見を聴取することができる。
(庶務)
第6条 委員会の庶務は、障害福祉室において処理する。
(運営事項)
第7条 この要綱に定めるほか、委員会の運営に関し、必要な事項は、委員長が委員会に諮って定める。
附則
この要綱は、平成21年6月15日から施行する。
この要綱は、平成22年4月1日から施行する。
平成22年度障がい者権利擁護委員会 名簿
<委員>
所 属 |
職 名 |
氏 名 |
備 考 |
三重弁護士会 |
高齢者・障害者支援 センター委員長 |
米 田 義 弘 |
委員長 |
社団)成年後見センター リーガルサポート三重支部 |
副支部長 |
波多野 健 一 |
副委員長 |
(社団)三重県社会福祉士会 権利擁護センター ぱあとなあみえ |
委員長 |
市 川 知 律 |
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(社福)伊賀市社会福祉協議会 |
地域福祉部 権利擁護課長 |
田 邊 寿 |
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(社福)名張育成会 アドボカシー いが |
事務局長 |
市 川 知恵子 |
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(財団)三重県知的障害者育成会 |
理事長 |
高 鶴 かほる |
|
同 上 |
事務局長 |
笠 井 幸 夫 |
|
三重県自閉症協会 |
副会長 |
山 根 一 枝 |
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NPO法人 三重県精神保健福祉会 |
政策アドバイザー |
南 川 久美子 |
|
三重県知的障害者福祉協会 |
会長 |
近 藤 忠 彦 |
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(社福)三重県社会福祉協議会 |
地域福祉部 副部長 |
山 本 和 寿 |
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三重県行政書士会 |
副会長 |
田 中 良 典 |
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<事務局> |
|||
三重県健康福祉部障害福祉室 |
参事兼室長 |
脇 田 愉 司 |
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同 上 |
生活支援グループ副室長 |
板 崎 寿 一 |
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同 上 |
生活支援グループ主査 |
大 井 茂 |
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